春節と言われても普通の日本人(特に現役で働いている人)にはあまり関係ないですね。何しろ1月中旬~2月初めにかけて行われる行事なので、完全に海外旅行オフシーズン。この時期に春節を行う国に旅行できる人は少ない、というか交通大混雑なのでオススメできません。
トラタロウも今までそうでしたが、今年は華人(中国系現地人)の多いクアラルンプールに住んでいますので、春節が大きな年中行事になりました。まだコロナウィルス感染の危険があるので、積極的には出かけませんでしたが、身近で感じた春節をまとめてみました。
春節はいつ始まるの?
今はあまり使われませんが、春節の別の表現が「旧正月」です。なんで旧かというと旧暦のお正月だからです。現在世界中で使われているのは1582年にヨーロッパで制定されたグレゴリオ暦で、太陽の運行を基準とし、1年を365日とする太陽暦です。
一方、中国を中心とするアジア諸国は月の運行を基準とし、太陽の運行も加味する太陰太陽暦(旧暦)を使う国が多かったのです。なんでも農業の関係ではこちらの方が便利だったとか。
その後欧米諸国が世界を制圧したためグレゴリオ暦(新暦)がグローバルスタンダードとなりましたが、年中行事、宗教行事は旧暦で行なう国は多いですね。ちなみに旧暦は1年が354日で、閏月などを設定して調整はしますが、新暦に直すと毎年微妙に変わります。そのため2021年の春節は2/12、2022年は2/1からと、毎年違うのです。
ヒンドゥー教の祭りタイプーサムもヒンドゥー暦のため新暦に当てはめると毎年変わります。太陰太陽暦に近いイスラム暦(太陰暦)も1年354日で、こちらは調整しないためラマダン(断食)などは毎年11日ずれてゆき、あるときは夏、ある時は冬という季節無視の宗教行事になります。
2023年の春節は1/22(日)から始まり1/23(月)までマレーシアでは祝日です。大晦日にあたる1/21も土曜日で休みの所が多く、1/23(火)も振替休日のためお休みで4連休となりました。
以上は公の休日ですが、中華系の学校や企業はもっと長く休みを取り、里帰りなどをするのが当たり前のようです。伝統的には春節は15日間あるそうですが、さすがにそこまで休むことなないでしょう。でも期間内に色々な行事が行われます。
日本も明治初期まで旧暦によるお正月でした。現在の1月末から2月初めぐらいの時期なので、寒さは厳しいですが、日が長くなり「迎春」という言葉がピッタリきます。新暦の1/1だとまだ日が短いので春はまだ遠い、と感じるのは旧暦の行事を新暦でやっているからです。
日本はお正月を新暦でやるようになりましたが、これは例外的。中国や台湾・シンガポールのような中国文化圏はもとより、影響を受けた韓国の旧正月ソルラル、ベトナムの旧正月テトや華人の多いマレーシア・インドネシアのお正月は旧暦で行い、新暦1/1はただの休日です。
赤いデコレーションで染まる街
クリスマスが終わるとクアラルンプールの商業施設は赤く染まっていきます。次のセールチャンスである春節の主役たる華人が、一番お金を持っているので気合が入りますね。
赤くなるのは赤が「邪気を払い、幸運を呼び込む」色だからです。日本でも神社の鳥居が赤いのは、邪悪をよせつけぬ結界の意味があり、ルーツは同じかもしれません。
定番の赤い提灯を筆頭に赤いデコレーションが店内そして街頭を彩ります。
春聯(しゅんれん)、対聯(たいれん)と呼ばれるおめでたい漢字の表現も飾られます。
一番見るのが「恭喜發財」(コンシーファッツアイ)、お金持ちになっておめでたい的な表現と「新年快楽」という表現。
幸運を呼び込む「福」の字も多用されますが、時々「福」がさかさまになっていることがあります。これは倒(さかさま)と到(来る)がタオという同音なので、福をひっくり返すとタオフゥ(福が来る)という漢字の言葉遊びです。
赤い装飾・春聯と同じく大事なのが、干支の動物。今年は卯年ですのでウサギだらけ。
上の画像はクアラルンプールの繁華街ブキビンタンを代表するモールであるパビリオンの春節デコレーション。さすがパビリオン、巨大なウサギ像が対であります。人間を片手でつぶせそうなサイズですね…ホラーかよ。
この時期各店舗が趣向をこらした春節デコレーションをするので、周ってみるのも楽しそうです。
贈り物と紅包と新年歌
この時期スーパーや百貨店がこぞって売りにだすのが贈り物セット。拝年と呼ばれる新年の挨拶まわりで、親戚やお世話になった人にプレセントをする習慣があるそうです。
そんなに高額な物ではなさそうですが、数がでれば良い商売になるのでしょう。
梨(Li)は離別の「離」と同音なので贈らないなどタブーもあるとか。
スーパーでコカ・コーラの宣伝部隊から赤い紙の袋セットをもらいました。紅包(アンバン)というお年玉袋だそうです。
一般的な中国語(北京語)だと紅包はホンバンというような発音ですが、マレーシアは福建系中国人が多いので、福建語の発音になります。
春節前からあちらこちらの商業施設やチャイナタウンで聞こえるのが新年歌。チンチントンシャーンという中国的としか言いようのない伴奏に乗って歌われる新年を祝う歌です。
トラタロウ30年前の冬にKLのチャイナタウンに滞在していた時、これが気に入りましてテープ(まだCD以前です)を買いました。
今YouTubeで新年歌を聴くと、昔聴いていた歌がけっこうあります。
『萬年紅』『財神到』『財神老爺下凡了』などですが、昔から歌われ続けた曲なのですね。
新年歌によく登場する財神とは中国版福の神で、春節5日目に訪れるといいます。財神着ぐるみもあってイベントでは大人気。
新年歌は中国語なので意味は分かりませんが、「恭喜」(コンシー、おめでたい)はやたらと使われるので覚えてしまいます。新年歌はすごく中国的で楽しいのでYouTube等で聴いてみるのもオススメです。
おめでたい食べ物
日本のお節料理は縁起をかついだ食品を集めますが、春節でも同様、イヤそれ以上に縁起をかつぎます。
その中でマレーシアやシンガポール独特の縁起かつぎ料理がイーサン(漢字で生魚と書く)。もともと中国では「魚」(ユイ)と「余」(余裕がある、豊かである)が同音であることからおめでたい食品でした。
マレーシアではこれが独自に進化し、魚と様々な縁起の良い食品(例:ピーナッツ=商売繁盛、人参=運気UPなど)を組み合わせ、めでたさ無限大の食品イーサンができました。
いくつもある中国語
日本で学べる中国語、NHKの中国語講座などは普通話と呼ばれる北京語です。これが一応共通語なのですが、中国も広いので各地で地方語も使われます。イーサンは漢字で生魚、北京語だとシュンユイという発音ですが、イーサンはマレーシア華人に多い福建語の発音かな。
東南アジアの華人は中国南部から来た人の子孫が多いので、福建語や広東語が多いのです。ちなみに世界でお茶を意味する言葉はcha(日本のチャやインドのチャイ)と ti (英語のtea の語源)ですが、前者は福建語、後者は広東語が源です。
イーサンを食べるには独特のお作法があります。みんなで箸でイーサンをつかみ、持ち上げて、落として混ぜてからいただくと幸運が舞いこむそうです。皿からこぼれても問題なし。ちなみに美味しいかと言うと微妙なようで、ドレッシングの味しかしないとも言われていますが、縁起物ですので。
家庭でイーサンを食べるのは華人(中国系マレーシア人)だけですが、職場や会社で春節休み明けに従業員が集まって食べていたりします。中には華人が全然いない職場でも食べていたりします。まあ春節はあまり宗教色強くないのでイスラム教徒、ヒンドゥー教徒も参加しやすいですね。
中国文化圏全体でおめでたいとされる食物がミカンなどの柑橘類。漢字では橙、桔、橘などがミカンを表現する漢字ですが、橙は成(成功する)と同音、桔や橘は吉(めでたい)と同音だそうです。
また、マレーシアではどうか知りませんが、餃子もかつて使われていた銀の大型貨幣である元宝に似ているというので、富を象徴する縁起物として食べられます。中身は肉・野菜ですが、砂糖入りも忍ばせ、当たると甘い1年が迎えられるとか。
スーパーで元宝形の食品が Yuan Bao という名称で売られていたので調べたら、元宝の中国語音が Yuan Bao でした。中身は間違いなく甘い何かでしょう。
春節の華がライオン・ダンス
初めてライオン・ダンス(中国獅子舞)を見たのは今から10年ほど前の冬休みのこと。マレーシアのサラワク州はミリの街の小さなショッピングモール。地元のライオン・ダンスチームが春節前の予行演習のような形で披露するライオン・ダンスは一種のカルチャーショックでした。
獅子が邪気を払い、幸運を呼び込むという趣旨は日本の獅子舞も同じですが、春節のそれは中国打楽器の効果もあってもっと華やか,かつめでたさもひとしおです。
しかもこのライオン着ぐるみ、目(まぶた?)や耳が動くのですよ。要所要所で目や耳をヒクつかせる姿はキュートの極み。良し悪しは別にして、無骨な日本獅子舞とは別世界を構成してます。
ショッピングモールや企業の仕事始めなどでライオン・ダンスチームが呼ばれ技を披露します。
チームは華人だけかと思ったらインド系やマレー系の人もいて民族・宗教に関係なく活動していました。各民族の協調を願うフレーズ「One Malaysia」を象徴する感じです。
ライオンは踊りながら邪気を食べる、口から春聯を出す、ミカンを投げる、などのおめでたい動きをしますが、なぜかレタスを食べたことがありました。
なぜにレタス? 調べるとレタスは中国語で「生菜」(シュンツァイ)、そして菜は財と同音なので、富を生み出す的な意味があるのかな。
ライオン・ダンスチームは施主に呼ばれて来ます。最後の記念撮影を見ると施主は華人が多く、経済を握っているのが実感できます。
ライオン・ダンスには2つの演目があります。ひとつは邪気を払うダンス、もうひとつはハイポール・ライオンダンスと呼ばれる演目。1~2mのポールの上でライオンがアクロバティックなダンスをします。ライオンは頭・前足担当と後足担当の2人で踊りますが、高いポールの上で2人が息の合った演技をするさまは圧巻です。
※ 短いですがハイポール・ライオンダンスの妙技をご覧ください。
今回の春節でライオン・ダンスを5回見る機会がありましたが、ハイポール・ライオンダンスは1回だけ。これは演者も少ないし、出演料も高いのでしょう。ハイポール・ライオンダンスは1980年代にマレーシアで始まり、各国に広まりましたが、現在は国際競技会まで開かれるそうです。
※ ハイポール・ライオンダンスの妙技を再度ご覧ください。
このように2023年の春節を体験しましたが、英語の春節の表記は「Chinese New Year」と「Lunar New Year」(月を基準とする暦であるため)の2つです。マレーシアは前者が多いですがLunarも見ます。
近年ベトナムや韓国で中国との関係からLunar を使おうとする動きがありますが、あまり政治がからむと困りますね。
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